国立のギャラリービブリオで行われている丸山清人個展のレポートです。
丸山さんは現在日本に3人しかいない現役銭湯ペンキ絵師の1人。
今年80歳の最高齢絵師です。
丸山さんが国立市にお住まいであることからご縁がつながり、国立市内で個展を行うことになりました。
ギャラリービブリオの館主さんのご両親は昔、国立駅前で「富士見湯」という銭湯を営んでいらっしゃいました。
なのでギャラリーの3周年記念企画に、ご両親の稼業と非常に縁深い丸山さんの個展を行ったとのことです。
個展初日
個展には計3回足を運びました。
1回目は個展初日。仕事が後に控えていたため、1番乗りです。
早くに行ったのは、こちらのフリーペーパーを置かせてもらうためでした。
以前国立本店で制作したもので、丸山清人さんのインタビューを載せています。
こちらを会期中にビブリオで配布して頂けるということで、在庫を搬入しに行ったのでした。
会場に入ると壁一面に並ぶペンキ絵の数々。壮観です。
銭湯に描かれる大きなペンキ絵をぎゅうっと縮小したように見えますが、飾られている作品は印刷ではなく全て直筆。
「これだけサイズが違うと描き方が全然変わってくるんじゃないですか?」
と以前聞いたところ
「ハケを絵筆に持ち替えはするけど、基本的に描き方は何にも変わんないよ」
と返ってきました。
サイズだけでなくいろんな材質に描いてきた丸山さん。でも丸山さんが何十年もかけて培ってきたペンキ絵の技法はどんな状況でもゆるぎありません。
その技法は小手先のテクニックといった類いのものではなく、脳に刻みこまれた地図のようなものなのでしょう。
どんな場所に放り出されても最短の道筋で目的地へたどり着ける、無意識にも近い感覚。
銭湯絵の花形ともいえる富士山の景色は現実の場所をモデルにした「イメージで描いてる」と丸山さんは仰っていますが
丸山さんの頭の中には、いつでも自分の絵筆で思い思いの富士山へたどり着ける独自のルートがあるんだと思いました。
1番乗りだったにも関わらず、すでに数点の絵に売約済のシールが。
それは丸山さんの奥様が気に入って、自分の手元に残しておきたい絵たちだったそうです。
ライブペインティング
2回目に行ったのは27日。今回の個展の目玉イベント、丸山さんによるペンキ絵のライブペインティングが行われる日でした。
満杯のお客さんが見守る中、2時間かけて畳1畳くらいの大きさの板に富士山が描かれます。
おりしもこの日は谷保天満宮の例大祭。祭囃子と神輿が何度もペンキ絵の向こうで往来します。これ以上ないシチュエーションでの実演でした。
銭湯絵のライブペインティングの醍醐味は、のっぺりとした油性ペンキの風合いが、絵師の手によって陰影深い表情に変わる、その瞬間です。
たとえば富士山の頂が、ただの白から厳しい自然の積雪に変わる一瞬。
手前の木々が、ただの緑から萌えさかる新緑に変わる一瞬。
おもむろに放った黒い線が、立派な松に変わる一瞬。
瞬間瞬間のたび、オーッ!と感嘆の声がそこかしこからあがります。
ライブペインティングを観ていて一番気持ちいい所です。
他にも色の混ぜ方や山あいのぼかし方やいろいろ刺激的な発見があったのですが・・・・長くなりすぎるので割愛します。
とても素晴らしいものを見せてもらいました。
丸山さんや銭湯愛好家の方々との交流
そして3回目は翌週の火曜日。
1回目2回目ともにバタバタしていて肝心の展示作品を見られなかったので、ここでようやくじっくり鑑賞させてもらいました。
初日から約1週間経っていましたが、既にほとんどの作品が売約済になっていました。なので急きょ追加展示した作品も。
作品は非常にバリエーションに富んでいて、銭湯に通っているだけでは見られない作品がいっぱいです。
たとえば、通常銭湯では赤富士(夕暮れ時の富士山)は描かれません。「日が落ちる」と「客足が落ちる」をかけて縁起が悪いとされているからです。
そういうわけで中々銭湯ではお目にかかれない赤富士ですが、個展ではたくさん見られます。赤富士だけではなく、雪の降り積もった景色や、葉のすっかり落ちたうら寂しい秋の風景など、四季がふんだんに盛り込まれています。
とりわけ丸山さんご本人は夕刻や秋の趣き深い絵がお気に入りのようで、ふっと1枚の絵を指さして
「俺ぁこの絵が特に好きなんだよ。紅葉の赤がきれいーに出てる。こんな赤が出るのは珍しい。偶然の産物だね」
と嬉しそうに話してくれました。
何十年も白・青・赤・黄のペンキを絶妙に混ぜ合わせて自然の多彩な色を表現してきた丸山さん。
個展会場の様々な絵を見ていると、丸山さんに出せない色がないように思えてしまいますが
そんな丸山さんにも奇跡の赤があるという話を聞いて、色彩の世界の奥深さに触れた思いがしました。
この日は平日にも関わらず、名古屋からはるばるいらっしゃった銭湯愛好家の女性や銭湯普及運動をしているカメラマンの女性など、たくさんの方が来館されており、いろんなお話しができました。
丸山さんも加わり、ちゃぶ台を囲んで長々と談笑。ここでも、実はライブペインティングに用いた畳サイズくらいの絵が一番描きづらい(ハケと絵筆のちょうど中間だから)ことなど、いろんなこぼれ話をうかがいました。
もう会期終了まで丸山さんの在廊予定はないそうですが
何より作品が雄弁にペンキ絵の世界を語ってくれます。
10月4日(日)まで開かれているので未見の方はぜひ足を運んでみて下さい。(※終了しました)