国立最後の銭湯「鳩の湯」へ


都心で四月の雪が観測され、寒の戻りがすさまじいここ数日。

国立市内にある唯一の銭湯「鳩の湯」に温まりに行ってきました。
 
矢川の方に行くと「国立温泉 湯楽の里」という新しくて大きな入浴複合施設がありますが、純然たる銭湯は鳩の湯しかありません。
 
去年の暮れまではもう一つ「松の湯」という銭湯がありました。
「東の鳩の湯」「西の松の湯」といった風情でちょうど国立市内の両翼を担うロケーションだったのですが、先日松の湯さんは閉店、解体されてしまいました。

 

松の湯のおわり 

長年その地に根を下ろしていた建物が取り壊される光景は、どこか目を離せないオーラを放ちます。
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建物前面部にあたる脱衣所が解体され、風呂場が吹きさらしになっている所です。
 
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ペンキ絵が外に向けてむき出しになっています。
銭湯のペンキ絵は通常、裸でお湯に浸かる空間でしか見れないものです。
そんなペンキ絵が街に顔を出している。それは異様ともいえる風景で、どこか見てはいけないものを見ている気持ちにもさせられました。
 
更に解体が進むと跡地は煙突だけとなり
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それもやがて取り壊されました。
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「防音」と書かれた布に包まれながら解体を待つ煙突です。なぜか凛々しい。
 

全然関係ありませんが先日横浜ブリッツも取り壊されたそうで、解体中の写真が流れてきました。こちらは二階席が外にむき出しになっています。℃-uteのイベントでよく座ったなあ。もうあの座席の向こうに輝くアイドルは居ないんですね。

 

 国立最後の銭湯・鳩の湯へ

そんな訳で、市内に残る銭湯は鳩の湯のみになってしまいました。
オールドスタイルを貫いていた風のあった松の湯さんと比べて、鳩の湯さんは随所にオリジナリティを感じさせられる作りです。
きっと店主さんがお客さんの要望や時代の流れを汲み取りながら創意工夫を重ねていらっしゃるのでしょう。
温かみを感じました。

 南口から斜め左に真っ直ぐ伸びる旭通りを歩くこと約十分。
旭通りの突き当たりに鳩の湯はあります。
と言っても入口は通りに面しておらず、脇の細道に入りぐるっと回り込むと玄関に。
銭湯と向かい合わせに建つコインランドリーの壁には鳩の湯を取り上げた新聞記事のコピーや催しの貼り紙がありました。懐かしい唄を楽しむ音楽会やふれあい体操、舞踊ショーまで。今も定期的に開催しているのかは確認できませんでしたが、音楽会を取り上げた記事が2009年の新聞だったのでここ数年に興ったイベントなのでしょう。  

 

 訪れた日はあいにくの雨。しかし玄関口に傘入れが無い・・?
辺りを見回していたらコインランドリーに腰掛けていたおじさんが声をかけてくれました。
「これが傘入れだよっ」

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暖簾をくぐった真正面にあるロッカーをおじさんは指差しました。確かに下足入れにしては小さいです。中を開けてみると・・

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奥が深い!

(いろんな意味で)

 

ここに傘を寝かせて差し込むようです。

鍵付きの傘入れというと取っ手部分をロックする傘立てしか見た事がありませんでしたが、この“傘ロッカー”はそれが普及する前の物なのでしょうか。初めて見ました。面白い!

 

番台は脱衣所に背を向ける形の、フロント式と番台式のあいのこのような形状。

浴槽は大きく二つに分かれていて、片方はやや熱めのジェット風呂とミクロ泡風呂。もう片方は底が深く立ちスタイルで入る超音波風呂と局部をマッサージする強力ジェット風呂がありました。

また奥にはサウナと水風呂があり、サウナは営業休止中でしたが水風呂は自由に入れるので熱い風呂と水風呂を交互に楽しんでいる人も居ました。

フロントで使い切りのシャンプーとリンス(各40円)を買おうとしたのですが、据え置きのリンスインシャンプーがあると教えて貰ったのでそちらを利用。

湯船は熱いですが一分と入っていられない程ではありません。じっくりとお湯に浸かりながら眺める「西伊豆」と書かれた男湯と女湯にまたがる富士山のペンキ絵やスコーンと高く突き抜ける水色の天井は銭湯ならではの気持ちよさです。

 

お風呂からあがって着替えたらガラス戸の外にある喫煙スペースへ。

喫煙所には三角屋根の国立駅舎の写真や「鳩の湯に毎日入ったら体調がすこぶる良くなった」と書かれている、雑誌か何かの読者投稿欄の拡大コピーが貼られています。

ベンチに座ってぼーっとすると、トタン屋根に当たる雨粒の音が耳をくすぐって心地好いです。

 

脱衣所に銭湯の絵本が置いてあったので読みました。

 

ふくのゆのけいちゃん (こどものともセレクション)

ふくのゆのけいちゃん (こどものともセレクション)

 

  銭湯の一日がまるで高い天井から覗いたようなアングルで描かれていてとても愉快です。

また、絵本の中で営業前にペンキ絵屋さんが富士山を塗り替えに来るシーンがあるのですが、この絵師さんの風貌がどう見ても中島盛夫さん。
現在日本に三人しか居ない銭湯絵師の一人です。

三人の内もう一人は絵師になりたての若い女性で中島盛夫さんのお弟子さん。
そしてもう一人が丸山清人さん。最高齢の銭湯絵師です。
国立市在住の丸山さんは鳩の湯のペンキ絵を手がけています。今日見た男湯と女湯のまたぎ富士も丸山さんの作。そして冒頭に挙げた松の湯のむき出しのペンキ絵も丸山さんが手がけた富士です。

国立最後の銭湯に日本最後の銭湯絵師。
そのどちらもが未だ現役で朗々と生業を全うされている事が嬉しく感じられました。
こういう人たちこそが楽しい未来のつくり方の答えを持っている。
そんな気がしている最近です。

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