ハシケン・デビュー20周年記念ツアー「バンド編」 in 名古屋@得三に行ってまいりました。
東京に住んでいるため、普段は遠方のライブに行けない私ですが、今回はハシケンさんのデビュー20周年を記念するツアー(バンド編)のラストということで、深夜バスで名古屋まで弾丸遠征することに。
得三には10年ほど前かに1度だけ行ったことがあります。
確かその時はハシケンさんと板橋文夫さんのコラボでした。
途中でヒートアップした板橋さんがピアノの打鍵を叩き壊してしまい、弾きながら「ハシケン、鍵がもどらないよ~」と助けを求める板橋さんにハシケンさんが近寄り、やさしくピアノを直してあげていました。
今でも思い出すと笑いのこみあげる光景です。演奏中にうっかりピアノの打鍵を叩き壊す人はあの時以来まだお目にかかったことはありません。
久しぶりの得三は、そんな10年前の思い出に負けないくらい濃い印象を残すライブでした。
開演前のハシケンさんのマイクスタンド。20年間変わらずでかい。
水の入った皮袋をたゆたう、音とからだ
20周年記念ツアーバンド編の編成はギター・ボーカルのハシケンさんにドラムの伊藤大地くん、ベースの上地gacha一也さんのスリーピースを基調として、開催地によりゲストを加えるという編成でした。
名古屋ではギターの河村さんがゲストとして登場。コーラスもやるはずが突然声が出なくなったということで、急きょ雰囲気コーラスに。喉がつらそうでしたが、そんなハプニングもさらりと流す余裕っぷりは、さすがハシケンさんの古女房担当です。
1曲目はハシケン屈指のスイートナンバー「くっついてたい」からスタート。
ゆるやかにやさしく会場をあたためます。
これを皮切りに数曲のスローナンバーが続きますが、ここでつくづく魅力に感じるのは伊藤大地くんのドラム。
大地くんのドラムの魅力はたくさんあるのですが、個人的には、来て欲しい所にびっくりするほど確実に来てくれる、という所が一番で、その魅力が如実に表れるのがスローテンポの曲たちです。
うたの継ぎ目継ぎ目に響くタイコやシンバルの色彩が、ゆったりとリラックスして伸びきった副交感神経にピリッ!と電流を流してきます。
大地くんのドラムに限らず、今回のバンド編ハシケンライブ全般で感じたのは、こういった緩急の集積体です。
セットリストは1曲を除いてすべて以前にライブで聴いたことのある曲でした。でもどれも初めて聴くような新鮮な感覚をおぼえました。
たとえば「気楽にラフにクール」はそれこそ20年近くライブで演奏され続けてきました。それでもこの日聴いた「気楽にラフにクール」はこれまで観てきたそれとは違うものに聴こえ、歌詞の内容が鮮明な色をもって頭の中に飛び込んできました。
「気楽にラフにクール」はこれまでバージョンを何回も変えて演奏されてきていますが、それだけでは説明のつかない新鮮な初聴感。その理由は、音楽素人の私にはなんとも説明のしようがないのですが、
20年近く前、南青山MANDARAのオールナイトライブでハシケンさんが「月光の道」を歌った時にこんなことを言っていたのを思い出します。
「うたは、歌いつづけるほどに、もとの思いのままでいられなくなります。いま「月光の道」は、そんな岐路に差しかかっている気がしています」
ハシケンさんはおそらくこういうことをデビュー前からずっと心に留め続けてきたんだと思います。
そしてファンの私はそんなハシケンさんの言葉をしつこく20年間心に留めてきたわけですが、
あの時ハシケンさんが言っていたのはこういう意味だったのかな、ということを最も肌で感じさせられたのが今日のライブでした。
同じうただけど同じうたじゃない。
のびる。ちぢむ。ふくらむ。かたまる。
人のからだは水で満たされた皮袋だといいます。
骨を軸にして、筋肉がのびちぢみして、皮袋のかたちを自在に変える。
まさにハシケンさんのデビューシングルに収録された「セッション」の世界そのものです。
小舟の舳先は丘に向かってる
たましい くすぐるのは誰だ
からだがよろこぶ ホホォーホホー
20年、という歳月のもつ質感
「セッション」は得三でも歌われました。
そこでのMCは20周年と伊藤大地くんについて。
先にも書いた通り「セッション」は20年前のデビューシングルに収録されているのですが、当時高校生だった大地くんはこの時ハシケンのファンになり、「セッション」をドラムで叩いていたそう。
「つまり私はファンと一緒にライブツアーを回っているわけです。凄くないですか?」
とハシケンさん。
どうでもいいことですが私と伊藤大地くんは同い年。生まれ育った場所も近いです。さらに私もハシケンさんへの憧れがきっかけでパーカッションをずっとやってきているので、大地くんには一方的に強い親近感と、それ以上に強い嫉妬心を抱き続けています。私も大地くんみたいにハシケンさんと一緒にライブ回れる人生を送りたかった・・・・!
いやでも、20年もライブ行ってんのに未だにハシケンさんに会うと緊張で体がガチガチになるもんな私。よくあんなに叩けるな大地くん。
・・・・という根拠のない上から目線の感慨を抱く私でした。
名古屋まで遠路はるばる行った目的は、20周年記念の限定発売手ぬぐいをゲットするためでもありました。
手ぬぐいはデザイナーの小川悟史さんが手がけたイラストで、ハシケンさんの20年間に起きた出来事を示す風景や文字、人物が象徴的に描かれています。
ハシケンさんのトレードマークであるハットと「HASIKEN」の文字の下には連なる山々。これはハシケンさんの故郷である秩父の武甲山を表しているそうです。
少年時代のハシケンさんの背中をいつも見つめていた武甲山。それにちなんでか、Hasiken名義の頃のリズム隊であったベースの今福さんとドラムの平嶋さんの二人には「武甲山」というユニット名が付いていました。(ちなみにコーラス他のMitchお姉さんとサックスの久米さんは「OPPES(オッペス)」というユニット名でした。未だに由来はよくわかりません)
と、古参ファンの豆知識をさりげなく披露しつつ、武甲山という名前を久しぶりに耳にして、「20周年」という言葉の響きがぐっと身近に迫りました。
手ぬぐいに描かれた20年は、私の20年でもあるんだなー・・・・
なんて言うととってもおこがましいですが、手ぬぐいを見ていると、ハシケンさんを観てきた思い出にくっついて、自分の人生のいろんな思い出が蘇ってきます。
あっというまだけど、たくさんのものが詰まっている。
20年という歳月ってそれだけの重みがあるんだなあと思いました。
風のような、花のような
話をライブに戻します。
今回のライブでとりわけ印象的だったのは「レラマカニ」です。
自分の肉体が「皮袋」であることを実感させられる音の羅列。
レラマカニとは「風」を意味する言葉を繋ぎ合わせた造語ですが、聴いていて、そのまま皮袋が風に乗って、いつしか風化して消えていってしまうような感覚をおぼえました。
「さらばバラライカ」のトロピカルな曲調にあわせて歌われる「きっとここには戻らない」という言葉はどこか郷愁を誘います。
ハシケンさんが昔デビッド・バーンの「Between the teeth」というライブビデオをお薦めしていて、それがきっかけで大好きになったのがビデオの1曲目に歌われる「(Nothing but)Flowers」という曲です。「さらばバラライカ」は「~Flowers」にどこか近いものを感じます。おどけるような、かなしいような、いとしいような、それらを全部くしゃくしゃに丸めてぽいっと高く空に投げたようなうたです。
ライブ後半は畳みかけるような激しい曲の連続で、ハシケンさんのギターの弦が切れました。板橋さんのピアノといい、得三でハシケンさんがライブをやると楽器がうれしくて悲鳴をあげるんだろうか。
この日唯一のカバーだったビートルズの「Day tripper」。
ハシケンさんが音楽の道に入ったきっかけは、少年時代にビートルズの「抱きしめたい」を聴いたのが原点だそうです。
なのでハシケンさんは今まで数曲ビートルズのカバーをしていますが、今回「Day tripper」を得三でやったのは初めてだそうで、レアでした。
ライブが終わり、名古屋から東京へ向かう深夜バスの中ではずっと興奮して、興奮したまま眠りにつきました。
これからはじまる20年間に生まれるであろう、今はまだ存在しない、うたたちのことを思い浮かべながら。